パートナーストーリー Vol.10 田頭氏
「もやもやしていた自分を変えたかったのかもしれません」

2018年春。毎年恒例の協働先選考会の一次選考会において、まるでそれが本職かと思えるほどよどみなく、スマートなプレゼンをしている女性がいた。

入会1年目の田頭氏、30代。

某大手飲料メーカーで人事として活躍しており、未就学児を抱える母でもある。

入会してまだ日が浅く、それまで何度か会った印象はどちらかというと控えめな、大人しい印象だったが、その日の彼女は、恒例のパートナーによる舌鋒鋭い質問にも怯むことなく、華麗に回答を紡ぎだしているように見えた。

「あの頃はそうですね、もやもやしていたかもしれません」

当時を振り返ってその時の話をすると、笑いながら彼女はそう返してきた。

傍から見ると公私ともに充実しているようにしか見えない田頭氏が、もやもやしていた?社会に出て10年で何があったのか・・・そのルーツに話を振ってみた。

元々、北海道の小さな町出身の彼女は、外に出る=違う世界を体験する・・・という想いで東京の大学に入り、外国語を専攻。18歳まで故郷の町で閉じ込められていた<変化>への渇望が、学生時代に一気に膨れ上がり、彼女をバックパッカーへと駆り立てたという。

卒業後、誰もが知っている大手飲料系メーカーに入社すると、現場の営業を経験し、その後人事部へ配置換えとなる。対クライアントという外向きの仕事から、対象は一転して社内の人間に。当初は戸惑ったというが、採用を皮切りに徐々に人事としての幅を広げていき、キャリアコンサルタントの資格にも合格した今は、人事として今後もキャリアを築いていくことに迷いは無いという。

では、何が「もやもや」だったのだろうか?

「なぜ自分はこの会社に居続けるのだろうか」

これは、2019年、SVP東京に入会した頃に、自分へぶつけ続けていた「問い」だという。採用に携わっていると、少なからず応募者から聞かれることが多い質問でもある。「あなたは何故この会社を選ばれたのですか?」

縁があって入社し、配属された人事という仕事も水が合って、会社も人も好きだと言える。でも、それはこの会社しか知らないからではないのか?そう思い込んでいるだけで、思考停止の状態になっているのではないのか?自分がこの会社で働き続ける理由をしっかり語れるようになりたい・・・

私生活では結婚をし、子供が生まれてからは育児と仕事の両立で、いつしかそれ以外のことを何もしていない自分になっていたという。

「何かしなければ・・・外の世界と接点を持ちたい・・・」

見えない何かに急き立てられるように、情報収集をした。

学生時代に興味を持っていた、国際協力の文脈から、色々なイベントに顔を出し始めた。そして、どこかは明確に覚えていないが、SVP東京の活動を知ることになる。

「プロボノ」という言葉は知っており、転職まではしなくとも、そういった形で他の世界と関わるのはいいのではないか、と漠然と思っていたこともある。また、単独ではなくチームで団体支援をするというモデルが、自分が知らない世界のビジネスパーソンと協働できる機会になる、というのも入会の決め手になったという。

「自立した大人の集まり」と彼女はSVP東京のコミュニティを表現する。ホワイトカラーが多く、コンサルや士業という属性の人も多い。コミュニケーションの取り方も自社内とは全く違う。冒頭で言及した、選考会での(傍から見るとスムーズに対応していたと感じた)やり取りも、彼女の中では、イレギュラーバウンドの千本ノック状態。何を意図して、その質問をしているのか。この人は味方なのか、敵なのか。SVP東京の団体としての意思はどう決定されるのか・・・全てが未知の世界で、いきなり洗礼を受けたと振り返る。

彼女は今、入会年に採択されたNPO団体、アクセプトインターナショナルのVチーム(協働を実践するチームの呼称)に所属し、LP(Lead Partner)として活動している。

団体は、テロや紛争に武力ではなく「対話」によって介入し、平和的解決を見出そうという試みを実践しているが、田頭氏が元々テロや紛争に関心高かったかというと、そうではない。取り組んでいるテーマ以上に、中で働く人への共感、「なんとかしてこの人の助けになりたい!」と痛切に思ったのが、チームに参加するきっかけだったという。

「役に立てている実感がなく、しょんぼりしていました」

協働が始まっても、最初から順風満帆だったわけではない。最初は遠慮の塊で、「人事しか経験していない自分には大したことはできない」と、半歩下がっていたという。元々、前年から団体と関係を築いていたパートナーもおり、他のチームメンバーも、事業開発系の仕事をしている人が多く、自分よりも団体に価値提供できそうな経験をしてきていた。

最初の数か月は、そんな「しょんぼり」状態が続いていたが、団体側の一人のメンバーとじっくり話す機会があり、そこで組織自体の課題を初めて認識する。正直、アーリーステージのNPO団体は、組織の体をなしていないことも多く、マネージメント体制も手探りでやっていることが多い。組織としての仕組みを作っていくところであれば、自分にも何かできるかもしれない・・・・

そう気づいてからは、ぽろぽろと自分の殻が剥がれていく感覚があり、「自分にできることをするしかないんだ」と割り切って考えられるようになった。

協働の中に自分の居場所を見つけると、今までもやもやしていた気持ちも、霧が晴れるようにすっきりしてきた。自分の経験を団体へ提供して活きることもあるし、逆に協働で培ったことが仕事で活きることもある。そして今は、それがたまらなく楽しい。

会社の外のコミュニティに属することで、改めて自分が会社を、そして社内の人たちのことを好きなんだということも実感した。客観的に会社を眺めることで、この会社だからこそ社会に対してできること、ということもクリアに見えるようになったという。

会社の中での自分、SVP東京の中での自分、団体との協働における自分、家族の中での自分、それら全ての「側面」がつながって、今の「自分」を作っている。自分の居場所が社内だけではない、と認識することで、改めて自分の所属している会社も、そして携わっている人事という仕事も、自ら選択してそこにいるのだと気付けた。気付けたことによって彼女は、以前に比べて思い切って、楽しんで仕事に取り組めるようになっているという。

「自分の働く姿を見せたかった」

働く母でもある田頭氏。実は、SVP東京に入会した理由のひとつに、自分の働く姿を娘に見せられるかもしれない、ということもあったという。

夫は自分の活動に理解があり、子育ても一緒に行っているが、敢えて娘さんを団体とのミーティングに連れていくこともあるらしい。会社勤めをしているだけだとなかなかそういう機会がなく、母としての自分だけでなく、自分がやりがいをもって何かに取り組んでいる姿を娘に見てもらいたい、と考えたのだという。団体側も問題なく受け入れてくれるし、SVP東京のカルチャーとして、基本的に子連れは歓迎だ。

現在、アクセプトインターナショナルとの協働は2年目を迎えている。コロナ禍でオンラインに移行した協働で、時間的な制約が緩くなったというメリットはあるものの、これは一年目に築いてきた信用という貯金があるからできる、とも感じている。今後、より価値を出していくにはどうしたらよいか、という課題は考えなくてはならない。

まずはこの協働をやり切ることだが、今後はSVP東京の運営側などの活動にも興味があるという田頭氏。定番の、「どんな人にSVP東京を勧めたいか」という質問をしてみた。

「もやもやしている人に来て欲しいですね」

自分がSVP東京にたどり着いたカスタマージャーニーは、同じ世代のビジネスパーソンにとっては王道パターンのはず。

キャリア、プライベート、特に不満は無いはずなのに、なにかもやもやしている。自分の存在価値、自分のしていることへの手ごたえ・・・何か物足りなさを感じている・・・そういった、なんらかの「もやもや」を抱えている人は、ここにくればきっと、何かしら得るものがあると思います。自分がそうだったので(笑)

 

 

(聞き手:桐ヶ谷)