【20周年企画】 NPO法人風テラス
「いつまでもワンオペを脱却できずにいました」

 

2022年に協働を終えたNPO法人風テラス代表の坂爪さんに、協働に至るまでの経緯から、協働の様子について話を伺った。

▼インタビュー(取材:2023年1月21日(土))

 

(Q)まず、SVPの投資・協働に応募しようと思った理由、きっかけは何だったのでしょうか?

(坂爪)10年ぐらい前、SVPのネットワークミーティングに登壇したことがありました。SVP代表の井上さんや、Teach For Japanの松田さんなど、すごい方がいたことが印象に残っていて、それが第一印象でした。その時に、SVPパートナーの方に「応募してはどうか」と言われてその年に応募したのですが、結果はダメだったのです。

それから時間が空いて、コロナに入る前、2020年の春先に風テラスへの相談が急増してきて、これはもう自分だけではさばけないし、組織を作って対応しないとまずいと強く思った時にSVPのことを思い出して、もう一度応募してみようと思ったのです。

 

(Q)応募していただく時点で、創業間もないアーリー・ステージで応募いただく団体もあれば、いわゆる「第二創業」のタイミングで応募いただく団体もあり、団体によって色々なステージがあるのですが、坂爪さんの場合は、自団体はどういうステージにあったと考えていましたか?

(坂爪)ホワイトハンズは10年以上、自分がぼほワンオペで運営してきて、障がい者の性という事業範囲はそれほど大きくなかったこともあり、この運営でよいかと思っていたのですが、2015年から風テラス事業がどんどん大きくなってきたので、風テラスに関しては、自分のワンオペを脱却しなければいけない、アーリー・ステージにあると感じていました。

 

(Q)そして選考を通過し、協働が始まった頃、何を感じましたか?

(坂爪)一番初めに、KPIを決めるのに時間がかかって、走り出すまでの準備期間が長かったと記憶しています。ただ、そこは一番大事な部分で、そこをしっかり決めないで走っても途中でこけてしまうイメージもあったので、慎重に行動計画を作った上で進めていく流れなのだと理解しました。また、自分はずっとワンオペでやってきたので、いろいろな人が関わってくれるのが嬉しい部分がありました。

 

(Q)2年間の協働のうち、1年目の成果は何だったと思いますか?

(坂爪)1年目は、まずインターンを活用しようということになりました。スタッフを雇う予定はなかったので、学生インターンさんを集めて、自分のやっていることを分業していく方向です。仕組みを作って募集の案内を出したところ、応募が結構あって、インターン制度を作って教えるということができたので、ここが一番、今につながっていると思います。来てくれたインターンの方が優秀だったこともありますが、その体制を作っていただいたことが非常に大きかったと思います。他のNPOでのインターンの知見なども紹介していただいて、すごく参考になりました。


(Q)その前は、本当にワンオペだったという感じですか?

(坂爪)はい、自分がひとりでLINEを操作して全部やる感じでした。そうではなくて、分業して、メールとツイッターはそれぞれ担当者を決めて、業務時間を決めて、という感じで進めていきました。

 

(Q)ワンオペはもちろん大変ですが、逆に楽な部分もあると思います。自分がやった方が早いとか(笑)。ワンオペを脱却しないといけないと分かっていても、なかなかできない団体もあると思いますが、坂爪さんはどうでしたか?

(坂爪)激しく同感です(笑)。自分でやった方が早いと思うのですが、でも、その状態で自分に何かあったら終わりじゃないですか。自分の独りよがりではなくて、自分がやっていることを言語化して誰でもわかる形に落とし込めれば、他の人に代わってもらうこともできます。NPOはいろいろな人の力を借りる一種の「借り物競争」的な部分が多いと思うので、全部自分で背負って走るのはよくないことが改めて分かり、大変だけれども進めていかないとだめだと思いました。

 

(Q)続いて、協働2年目で、成果や記憶に残っていることは何でしょうか?

(坂爪)2年目は、厚労省の助成金が取れて、600万円ですね、ドンととれて、うわっと盛り上がったのがピークだったと思います。ホワイトハンズの活動は15年近くやってきて、一回も助成金を取れたことがなかったので…。

 

(Q)助成金を取るために、SVPが貢献できたことはありましたか?

(坂爪)さきほどのインターンの仕組みとか、私が本を出したのでその出版記念のイベントを開催し、あわせて寄付金を集めるとか、風俗業界の中でどういう方がどういう経路で相談に来ているかを把握するといったことをしっかりと整理していただいて、そういった下準備があったから、しっかりとした計画の提案ができるようになったと思います。その支えがあったから、という感じですね。

 

(Q)応募の時点での自団体のステージについてお尋ねしましたが、2年間の協働が終わってステージが変わったという実感はありますか?

(坂爪)そうですね。応募した時は、自分がほぼ一人で回していたのですが、スタッフも2人増えて、インターンも約8名になったので、組織になってきました。まだアーリー・ステージだと思いますが、組織を作って分業して回していく第一歩になったと思います。

 

(Q)坂爪さんの場合は協働が終わってからまだ数か月なので、あまり変化がないかもしれませんが、協働が終わって少し経って、今の時点で振り返ってみて、SVPの協働の価値や成果はどこにあると思いますか?

(坂爪)チームで取り組んでいくことも含めて、SVPから教えてもらったDNAが残っていると思います。インターンの仕組みを教えてもらい、交流会の仕組みや、教えるための仕組みなど、あれこれ作らせてもらったものがずっと継続しています。今ではうちのスタッフがインターンをまとめる係になって効率的に動いてくれていて、それはすごい財産だと思っています。

 

(Q)団体によって、また起業家によって、取り組む社会課題はいろいろで、違います。取り組む社会課題によって、協働の前と後で、世の中の認識がまったく変わらない問題もあれば、ビフォーアフターで世の中の目が変わる課題もあると思います。風テラスが取り組む社会課題の場合、協働が始まる前と今で、世の中の目線の変化は感じますか?

(坂爪)コロナがあって、風俗がとても注目された2年間だったと思います。コロナで風俗店の営業が止まって、働けなくなりましたが、国や行政からいろいろな補助金などが出る中では風俗業界が対象から外されました。それに対して、いろいろな声を上げ、署名キャンペーンをやったり、ツイッターキャンペーンをやったり、非常に注目が集まった時期でもあったと思います。そのタイミングだからできた部分があって、自分の印象ではありますが、風俗の世界に福祉の対象になる方がたくさん働いていらっしゃるという認識が、ある程度、社会に広がったと思います。それがまた変なバックラッシュとかにつながるかもしれませんが、風テラスがそうした認知をある程度広げることはできたかなと思っています。

 

(Q)世の中の認知がある程度広がり、それは問題の解決に向かっているのでしょうか?

(坂爪)自分は向かっていると思います。風俗で働いている人はこの国に約40万人いますが、どこに行けば会えるか分からないし、働いていることを自分からは言わないし、看板を出してない店も多いという問題があるので、どこに接点があるかまったく分からないのです。その中で、こうした支援団体が活動することによって、寄付という形で関わったり、社会課題の現場を知るツアーという形で関わったり、インターンという形で入って相談を受けることもできるようになりしました。だから、一般の方々と風俗の接点はかなり増えたのではないかと思います。たぶん接点が増えていけば、こういう人たちが働いているのだとわかってきて、今は偏見があったとしても緩和されていくと思うので、解決とまでは言えなくても、いろいろな問題の緩和には結びついているのではないかと思います。

 

(Q)SVPの協働先に応募することを考えている団体に、SVPのことを紹介していただけるとしたら、どういう言葉になりますか?

(坂爪)自分と同じようにワンオペでやっている団体さんなどには、よく紹介しています。40歳を過ぎてワンオペで活動をやっていたら死にますよ、と。そこは直球ですね、薦め方としては。

 

(Q)ありがとうございます。最後に、SVPのパートナーに向けてひとことお願いします。

(坂爪)パートナーには感謝しかないというか、忙しい中、貴重な時間を削って、平日の夜とか休日とかにいろいろな作業もやって、本当に神様としか思えない部分があります。NPOは関わった人を変えるのが一つの仕事だと思うし、NPOに関わることによって、ものの見方が変わったりとか、視野が広がったりとか、人間関係も変わるとか、いろいろなことがあると思うので、関わってくれた人が自分の行動範囲を広げるような、そんなきっかけになれたらうれしいです。

 

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▼風テラスについて(https://futeras.org/)

風俗の世界には、失業・障害・病気のために社会の中で居場所を失い、福祉にもうまくつながれず、収入を得るためにやむをえず参入した女性がたくさんいます。偏見に晒されて孤立・困窮している彼女たちが、風俗で働いているという事実を隠さずに安心して相談できる機会、そして福祉や公的支援につながることのできる仕組みをつくることを通して、どのような立場や環境に置かれていても、誰もが必要な福祉的支援を受けることのできる社会の実現を目指して、風テラスは設立されました。

具体的には、LINEやツイッターなどのSNSを窓口に24時間365日相談を受け付けており、弁護士とソーシャルワーカーの相談員がチームで相談を受けるオンライン/対面での相談会を毎月開催。 2015年10月に東京・鶯谷で相談会を開始して以来、約8年間で9,000人以上の女性の相談を受けています。

 

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▼代表/坂爪真吾(さかつめ・しんご)氏

東京大学文学部在籍時に上野千鶴子の社会学ゼミに所属し、風俗店のフィールドワークを行ったことをきっかけに、風俗というものに対する観念的な是非論や道徳論を唱えても意味がない、と考えるようになる。2015年、取材で訪れた激安風俗店で、多重債務や生活困窮、精神疾患や軽度知的障害など、法的・福祉的支援が必要な状態であるにも関わらず、誰にも、どこにもつながれないまま、リスクを抱えて風俗で働き続けている女性たちと出会い、現在の風テラス活動の原点である「待機部屋での相談会」を開始。

 

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▼SVPの協働内容

◆協働期間:2020年~2022年

◆当初の協働計画:

2020年時点で活動の仕組みはできていたものの、ほぼ代表一人体制で、収入面はほぼ手弁当に近い状態だったため、現状把握をしながら収益モデルの検討(寄付インフラ、助成金、その他研修事業など)、人的リソース確保、スケールアウト(受益者拡大)を目指す。

◆協働の成果と実績:

<経営戦略>
・障がい者の性に関する事業など、複数の事業を「一般社団法人ホワイトハンズ」として実施していたことが助成金採択のハードルになっていたのではないかと考え、NPO法人化を検討。2022年4月にNPO法人風テラスを設立し、風テラス事業を独立させた。

<助成金対応>
・初の助成金を獲得(厚生労働省から600万円)。

<ファンドレイジング>
・寄付インフラの整備(2023年1月時点でマンスリー会員165人に)

<IT支援>
・相談サービスのマンパワー不足解消と効率化に向けてチャットボットの導入を検討し、SVPパートナーの専門性を活かしてLINEチャットボットを完成。
・組織内のコミュニケーションツールとしてSlackを導入、定着支援。

<人材採用・育成>
・インターンの募集推進とインターンの活性化。

<広報・PR>
・坂爪代表の著作出版にあわせ、記念イベントを企画・運営。

<多言語対応>
・台湾の団体から問い合わせがあったことをきっかけに、海外からの助成金も視野に入れ、公式サイトの中に英語ページを制作。