【20周年企画】 NPO法人チャリティーサンタ
「パートナーもサンタになってくれて・・・」

 

2017年に協働を終えたNPO法人チャリティーサンタの清輔さんに、協働に至るまでの経緯から、協働の様子について話を伺った。

▼インタビュー(取材:2023年4月11日(火))

 

(Q)協働が始まったのは2015年でしたが、SVPの投資・協働に応募しようと思った理由は何でしたか?

(A)NPO法人になる前の話ですが、外部のプロボノにお手伝いや研修をお願いした時に、すごく良い印象がありました。応募当時は金銭的にも人的にもすべてボランティアベースだったので、その中でちょっと背伸びしてトライできる、一番魅力的な場所としてSVPがあったという認識でした。難しいかなと思いながら、任意団体の時から1回、2回と応募し、3度目に採択してもらいました。

(Q)2回応募いただく団体はかなりあっても、3回という団体は多くはないのですが、3度に渡って応募いただいた理由は何だったのでしょうか?

(A)1回目も2回目も、「すごくいいね」とポジティブに言ってくださるパートナーの方がいたのが大きいです。採択されるフローやルールを聞いて、「これはタイミングやご縁もあるだろう」と理解し、心理的に嫌な気持ちにはならなかったので、選ばれるまでずっとやろうかぐらい・・・「こっちは折れないぞ」みたいな感じで思ってました。(笑)

(Q)SVPの投資・協働には、アーリーな段階で応募いただく団体もあれば、第2創業的な段階の団体もあります。チャリティーサンタの場合、どういうステージにあるという認識でしたか?

(A)ボランティアとしての活動はある程度整い始めていたタイミングで、これから事業化、収益化することが始まったアーリー段階というイメージです。団体としての事業基盤強化や、活動の価値の定量化のように僕らだけではできないことも含めて応募のテーマにさせてもらいました。


(Q)協働が始まって最初の頃、印象に残っていることはありますか?

(A)最初、ちょっと遠慮と、どのぐらいビジネスライクにやるのか、そのあたりが分からなくて聞いてみたところ、「特にSVPとして型があるわけではないです」ということでした。では、僕がやりやすいようにやればいいかなと思って、普段、ボランティアのメンバーたちとミーティングするときと同じように、この人たちも楽しませようという前提で、最初に必ずみなさんの近況を20分ぐらい聴く、それで和気あいあいとチームになっていく感じです。それをやり始めてから僕自身がやりやすくなったことは覚えていますね。

(Q)関係強化やチームビルディングのために特に行ったことはありますか?

(A)SVPのイベントで他団体の代表が「パートナーみんなとご飯を食べに行ったり、飲みに行ったりはしたけど、ひとりひとりと、もっとやればよかった」というようなことを言ってたんですよ。「あ、それだ!」と思いました。

それからすぐ、パートナーひとりひとりと1回飲みに行くことを漏れなくやりました。

7、8人で集まって話すのと、1対1で会って話すのでは、僕の質問も変わるし、あれはやって良かったと思うし、すごく記憶に残っています。Mさんとは東京ドームシティにある超かわいいカフェで、男2人で「なんでこんなかわいいところで?」という場所だったとか、Nさんとは神保町の魚串の店に行ったとか・・・。あれ、店のことしか覚えてない(笑)。


(Q)「店しか覚えてない」と笑っていますが、話の中味で記憶に残っていることは?

(A)自然と、その人のキャリアの話になりますよね。これまでのことも、これからこういうことを模索してるみたいなことも。定まっている人もいれば、ふわっとした話を聞いた人もいて、あれから時間が経って、「あー、そっちのキャリアになったんだ」というようなことを見聞きして、僕が言うことじゃないかもしれませんが、SVPをきっかけに、彼らのキャリアが変わっていってるんだろうなということをすごく感じていて、キャリアのことが印象に残っていますね。


(Q)1年目の成果は何でしたか?

(A)最初の申請の時に書いたテーマは、僕らは4つありました。支部数の拡大、つまりサンタ事業の拡大、活動の定量化、財務基盤の構築、認定NPOです。4つの中ですぐできるものと、やりたいけどなかなか協働期間中もうまく進められないもの、認定NPOの話はかなり重たいことだったりしました。
定量化が1年目に一番成果が出たところだと思います。クリスマスイブ当日、ボランティアの人に対して、アンケート調査は毎年必ず行っているんですが、回答してくれる方はポジティブな人が多くて対象者の3割程。それでも何百人と集まるんですが、「果たしてこの声をどこまで参考にしていいんだろうか?」と思うことがありました。それで、大変だけど、クリスマスイブ当日に参加者全員にアンケート用紙を配って、その場で回収することを実施しました。言うのは簡単ですが全国各地のギリギリのオペレーションに追加するので実行は大変です。かわいい目につくデザインにし、回答しやすいように回答は紙でしても良いしQRコードでも回答できる形にしたところ、その時は初めて1,000 人超のボランティアの声を集められたんです。その結果、それまでわからなかったことがたくさんわかりました。
例えば、ボランティアが1人あたり何件の家庭に行くのが満足度として最適なのか。具体的には、サンタの家庭訪問は1日に3家庭まではどんどん満足度が上がっていくけれど、4家庭を超えると下がるということです。リアルタイムにその日、その瞬間だから答えられることは結構あって、なるほど!」とわかったのが印象に残っていますし、今でもそれらの指標は参考にしています。

さらに、1年目は一緒に協働するパートナーの多くの方がクリスマスイブ当日、サンタのボランティアになってくださったんですよね。それぞれが各支部で体験して、「今までずっと理屈で聞いてたことがわかりました」という方が多くいて、2年目から話の解像度がすごく上がったことが印象に残っています。他の団体だと、現場が定期的にあったり、「来月行こうか」というようなことがあるかもしれませんが、僕らの場合はそれが2年間に2回しかなかったので。

 

(Q)2年間の成果は何になりますか?

(A)2015年、16年、17年は、団体的には一番大変だった時で、その途中を本当にいろいろな形で支えてもらったと思います。
金銭的にもそうですし、私自身も成長させてもらいました。スキル的なところ、調査や白書を作るところへの協力も含めてですね。団体の成長、私個人の成長、そしていろいろ足りなかったパーツを少しずつ埋めていってもらっているようなところがたくさんありました。
具体的に言うと、僕らの収益構造上、1月から12月にかけて手元のキャッシュがだんだん減っていって、1月になってお金が入って、これで次の年末までやっていけるかというような、右下がりの矢印の財務だったんです。その何とも言えない不安や、「理屈上は大丈夫そうだけど、本当に大丈夫かな?」というところを、「ではキャッシュフローの表を作りましょう」と、最悪のケースなども想定しながら複数パターンを一緒に作ったことが印象に残っています。

2年目の後半、金融機関から融資を受けるために資料を急いで作る必要があった時、大手町周辺で勤めているパートナーが何人かいたので、東京駅の改札内のカフェで週1回、朝7時半~8時半ならできるということでミーティングをして、大企業の経営経験のあるパートナーもひょっこり来てくれたりして、本当にこの人たちすごいな…!と思いながら、心強かったことも思い出しました。

(Q)団体が大変だった時期と協働の2年が重なったということなんでしょうか?

(A)そうですね。2014年にNPO法人化して1年目は気合と根性と、ラッキーでなんとかなりました。2015年からは、サンタの活動はずっと続けると決めているけれども、では果たしてどういう団体になっていくのか・・・?

当時の話を説明すると、寄付を募集するよりも、法人に対してプログラムを行うことで数百万円の資金を得て、それを拡大できないかと思っていたけれど、結局それは難しい。12月しかできないことも含めて。

これいいねと、企業と何か協働したり、他の団体とコラボしたりしても、どうしても単発で終わってしまうことが続いて、すごく疲弊したんです。双方にとって良いと思ったことをがんばってなんとか形にして、相手方の満足度も高く、我々も資金的にもプラスになって。でも次の年、担当者が異動になったり、社内を調整できなくなったり、我々としてはぜひ続けたいと思うプログラムでも「それぐらい温度感が違うんだ」と。

一連の出来事から、仮に一瞬売上が立ったとしても、続かないことだと誰も幸せにならないということを痛感し、その話をミーティングで話したときに、「やっぱりミッションに忠実にやるのが大切なんじゃないですか?」というあるパートナーの言葉は印象に残っています。

そして、2年目の最後のタイミングで、ミッションに沿った書店業界とのプロジェクト「ブックサンタ」の取り組みが始まりました。協働最後の卒業イベントの時に、「今度新しく取組を始めるんです」と発表しましたが、開始から今年で7年、直近では団体の収益の約半分がブックサンタになっています。

私たちの活動において本当の価値は何なのか?

ミッション・ビジョンを定めているが、本当にそれはかなえられることなのか?

もっと言うと、定量化、活動の価値は測れるのか?

そういうことを試行錯誤した2年間で、「サンタになることはある程度の効果はあるけれども、わかりやすく、ビフォーアフターで何かがどう変化すると言い切れないね」ということは納得感もあって、言い切りたかったけれども言い切れない。
活動に参加した人たちにとって、確実に良い影響があるのは間違いないと思うけれども、今ある既存の指標で測ることはできない、数字的には出ないということがわかりました。ちょっと良い言葉がみつからないけれど、「やりきったからこその気持ち良い諦め」みたいなところもありました。

この2年間が何かというと、自分自身が気づいてない、本当は重要なことを一緒に根掘り葉掘りしながら実行する期間。僕らの場合は1年周期なので、もう1回、それやる? 今年も?」と言った時に、「いや、もうこれはいいかな」みたいなことを気付かされる、整理される、諦めさせられる。そして次に進められる。整理と方向性が定まっていった時間だったかなと思います。

(Q)手前味噌な質問で恐縮ですが、協働を通じて一番ありがたかったことは何でしょうか?

(A)困ったときに、問いを挙げると、本質的な答えがしっかり返ってくる相手が複数いて、それが少しずつ違う角度で、確かにそうだなと思う相手が自分たちの団体の外にいる、その状態がとてもありがたかった。

「サンタ白書」を作るときにすごく言われたのですが、社会調査を発表していくのであれば、正面から事実は事実として伝えつつ、チャリティーサンタはそれに対してこういうことができるとか、こういう仮説があると言うことはいいが、事実と仮説は切り分けないと絶対にダメだと。どうしても、チャリティーサンタが言いたいことを書きがちになるので。
何回もその話をやり取りしたので、今も調査をしますが、とても気をつけています。中のメンバーはどうしても自分たちが言いたいことを言いがちになるのを、公共性といいますか、そのまま新聞に載っても大丈夫なようにすることを意識しています。それはSVPの協働期間中に鍛えてもらった。そういうことがたくさんあります。


(Q)2年の協働が終わったタイミングで感じたことと、数年経って今感じることは、たぶん違うのではないかと思うのですが、どうでしょうか?

(A)協働の4つのテーマのうち、支部数はゆるやかに増えていて、今は42です。申請時は22ですので、倍ぐらいになっています。

財務基盤は、2015~16年は2,500万円前後ぐらいで、そこから2019年まで3,000万円に届かない規模。ただ内訳は年々変わっていき、個人の寄付の割合が増えていきました。

それが2020年に3,500万、2021年が5,300万で、2022年度は決算がまだ締まってないですが、8,000万円を超える予定です。

金銭的なことがすべてではありませんが、大口の寄付がドンとあるのではなく、個人のたくさんの人の賛同が集まり、しかも継続的に集まるように変わって来ています。それによって組織基盤は整い始め、最近は拠点を増やしたり、ボランティアでずっと関わってきた人が副業として関わるなどの事例も出てきました。そして今、成長痛と戦いながら、より良い活動を継続して発展させていくために奮闘中です。

 

 

(Q) それぞれの団体の活動によって、社会課題に対する社会の理解が変わることもありますが、チャリティーサンタの取り組みによって、協働の前と今で、世の中の理解や状況は変わっていると思いますか?

(A)僕たちは結局、「サンタになる=社会参加する」ことがその人にとっても良いし、そういう人が増えることが社会にとって良いと考えてやってきました。ただ、当時の私たちが行っている活動は、出番が年に1回しかなくて、しかも日を選べない。制約がいっぱいある中で、広げたいけど自分たちで制約をかけているような状況でした。

それを今、ブックサンタでは制約が減り活動へ参加する人は約5万人。当時の30倍にもなります。ブックサンタが広がることにより、知らない誰かのためを思って、小さなアクションをする人が毎年何万人と増加している状態です。

プロジェクトは違うけれど、叶えたかったことは変わってなくて、よりライトに参加できて、自己有用感もすごく感じられる。

SVPの協働の2年間を通じて、事業が整理されたり、新しい可能性を見出せたりした結果、新しいプロジェクトで本来かなえたかった価値が見出せているのかなと感じています。


(Q)最後に、5年後にどうなっていたいと考えていますか?

(A)今のキーワードは「自然な成長」です。

先に数字の目標があって逆算して、それを達成しようという考え方ではないです。

2020年は、僕らの組織体制的にキャパオーバーで、成長中のブックサンタでは、開催期間を途中終了するかもしれない、ということがありました。しかし、経営判断としてそれは違うと反省しました。

世の中の流れや、応援の力が働いているときに、それを自ら制限するのは止めたいと明確に思いました。自然な成長を育んでいくことを大切にしたい。この5年ぐらいは自然な成長をしっかりさせて、働く仲間が今後も働き続けられるように、それぞれにあった働き方や、ここにもう少し人が必要というような調整も含めて、全体のバランスを取ることを大切にしたいと思っています。

計画上うまくいくとこのぐらいに着地する。この状態になれるように自分たちも準備しよう!」 言っていることは同じでも、「これを必達目標にするぞ!」という考えではありません。今いる大切なメンバーと、「ここはみんなでがんばっていきたいよね。じゃあそのために何が必要可?何をがんばろうか?」というような、アプローチが似ているようで違う、そんな話をしています。

 

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▼NPO法人チャリティーサンタについて

「あなたも誰かのサンタクロース」を合言葉に、活動を始めた日本発祥の団体。

2008年活動開始。2014年NPO法人化。幼少期のサンタさんとの思い出を忘れられず「今度は自分が届ける番だ」と思った男性(現代表理事)と、世界一周旅行中に出会った途上国の子どものために「日本で彼らのために何かをしたい」と心に決めた女性が出会い、お互いの想いを共有する中で活動をスタート。

当初から行うボランティアのサンタクロースによる訪問活動は、30都道府県42支部で展開(2022年12月時点)。全国の書店と連携するブックサンタは、全国47都道府県に広がり、年々参加者が増えている。全国の洋菓子店と連携するシェアケーキなど、子どもたちを支援するための新しい取組を創出している。

 

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▼代表/清輔夏輝氏(きよすけ・なつき)氏

NPO法人チャリティーサンタ代表理事。1984年生まれ、福岡県出身。国立有明高専建築学科卒。建築設計事務所、ITフリーランス、株式会社サイバーエージェントを経て、2014年より現職。

6歳のクリスマスにサンタさんから直接プレゼントをもらったことが原体験。ヒッチハイクで日本3周。旅で出会った僧侶から「恩送り」という価値観を学びチャリティーサンタを立ち上げる。

 

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▼SVPの協働内容の概要

◆協働期間:2015年~2017年

◆当初の協働計画
①サンタ事業を全国各地で行う支部数の拡大
②サンタクロースになる活動の社会的な効果を検証するための定量化
③安定的に事業を拡大していくための財務基盤の構築
④認定NPO法人の認証取得を目指すこと
を柱とした。

◆協働の成果と実績

<事業開発>
・サンタクロース活動の社会的な効果を検証するための定量化プロジェクトを設計、アンケート調査を行うなど実施に協力
・新しい支部の立ち上げのための課題の整理や組織体制整備などの支援

<財務基盤>
・金融機関からの初めての融資獲得のための支援
経済的な問題を抱える家庭の子どもたちに「特別な思い出」を届けるための「ルドルフ基金」立上げをサポート
・認定NPO法人を取得するためのリサーチなど

<調査・広報・PR>
・「サンタ白書」発行のための企画、編集、クラウドファンディングなどを支援

<その他>
・パートナーが各地の現場でサンタクロースとして活動