10月10日の夜7時から、約50人が東京・虎ノ門の日本財団の会場に集まり、【SVP東京20周年・社会起業家の成長と伴走 ~未来を創る“仲間” に出会う~】と題したイベントを開催しました。

▼登壇ゲスト
NPO法人クロスフィールズ
代表 小沼大地さん
国内外のNGO・スタートアップに飛び込み、本業のスキルと経験を活かして社会課題の解決に挑む「留職」プログラムなどを実施
https://crossfields.jp/

認定NPO法人ピッコラーレ
代表 中島かおりさん
にんしんにまつわる全ての「こまった」に寄り添い、正しい情報や利用可能な社会資源を伝え、つないでいく妊娠葛藤相談の事業などを実施
https://piccolare.org/

株式会社LivEQuality大家さん/NPO法人LivEQuality HUB (SVP東京・元代表)
代表 岡本拓也さん
シングルマザーなど様々な事情によって住まい探しに困難を抱える女性に住まいを提供、地域の支援団体とつなぐ事業などを実施
https://livequality.co.jp/

夜7時、司会を務めたSVP東京(共同代表)の桐ヶ谷昌康から、SVP東京の20年の歴史や投資・協働の仕組みについて概略を話し、参加者が近くに座った人たちと自己紹介して場の雰囲気を温めるところからイベントが始まりました。
そして、ゲストの自己紹介とそれぞれの団体の活動紹介に。

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(ピッコラーレ中島かおり)認定NPO法人ピッコラーレの代表、助産師の中島かおりです。SVP東京のみなさん、20周年おめでとうございます。
ピッコラーレは、妊娠をきっかけに誰もが孤立することなく、自由に幸せに生きていける社会を目指して活動しています。2015年12月から、妊娠で葛藤している方のための相談窓口「妊娠SOS東京」を立ち上げて約8年活動しています。
「妊娠葛藤相談窓口」というのは、「妊娠相談」とは違います。
みなさん、妊娠と聞くと、どんなことを思い浮かべますか。
みなさんそれぞれの今までの経験や、価値観や、信じていることによって、一人ひとり違うと思うのですが、私たちが現場で出会っているのは、妊娠が「困りごと」になっている人たちです。妊娠と聞くと、女性だけを思い浮かべるかもしれませんが、相談の16%は男性からですし、セクシャリティは本当にさまざま、年齢もさまざまな方から相談をいただいています。

4年前からもうひとつの事業として、豊島区の池袋に一戸建ての家をお借りして、ネットカフェなど安心できる居場所で暮らすことができない状態にある妊娠している方に一時的な住まいを提供しています。今日登壇している岡本さんに物件を探す時に相談させていただいたり、SVP東京のみなさんのお力を借りて、そういう場所を作ることができました。
最近実は引っ越して、豊島区池袋の立教大学のすぐ裏に拠点が移り、これまでの2倍ぐらいの面積になりました。(拍手)ありがとうございます。そこはシェルターではないので、多くのみなさんに来ていただける場所です。興味がある方は遊びに来ていただけたらうれしいです。

(クロスフィールズ小沼大地)NPO法人クロスフィールズの小沼と申します。我々は2011年に創業し、13年目を迎えています。
「社会課題が解決され続ける世界」をビジョンに掲げて活動しています。社会課題は残念ながら人間が生きている限りはなくならないものだと思っているのですが、課題が出てきた時にそれが解決されていくような世界を創っていきたいです。

SVP東京の活動と、我々が目指している世界観は近いと思っていて、ビジネスとソーシャルの垣根がもっとなくなり、ビジネスセクターのリソースがソーシャルセクターに入っていって、ソーシャルセクターが社会課題解決を進めていくことを実現したいと思って活動しています。

具体的に、創業から続けている「留職」プログラムでは日本企業の20~30代の方々に途上国のNGO・NPOに行っていただいて、そこで社会課題の解決をやってもらうということを通じて、現地の課題解決をしながら、その人のリーダーシップを育成することを目指しています。このプログラムは日本企業に人材育成として導入していただいています。
先ほど、司会の桐ヶ谷さんが「SVPはダブル・ミッション」と言っていましたが、我々もまったく同じで、途上国の社会課題解決の支援と、日本企業の中に社会課題を自分ごととしてとらえるリーダーを作っていくという、2つのことを実現しています。SVPはそれをB to Cでやっていて、我々はB to Bでやっていると整理できるのではないかと思います。
我々はこれを2011年からやっていて、事業はかなり転換してきました。若手が途上国に行くだけではなくて、経営幹部の方々が社会課題をもっと理解するべきだという議論があったり、2015年頃からSDGsの採択や、ESG投資への熱の高まりというような流れがあって、企業の部長さんや役員さんにNPOの現場に行っていただいて、社会課題の解像度を上げてもらい、会社として何ができるかということを一緒に考えていくプログラムも実施してきました。今日もここにSALASUSUやWELgeeの方がいらっしゃっていますが、いろいろなNPOとつながりながら、一緒になって企業の考え方にポジティブな変化を与えていくことを2つ目の事業として取り組んでいます。
ただ、コロナの中では既存事業が全然できなくなってしまったので、VRを使って社会課題の現場を疑似体験してもらう事業も始めました。

2年前には、団体のビジョン・ミッションを改定して、自分たち自身もイシューをひとつ特定して、そこに向けて何ができるか考えていくということで、今は孤独・孤立というテーマを決めて、そこに向けて自分たちがこれまで培ってきたつながりなども使って何ができるかを考える事業探索もしています。

SVPは20年間、人は変わっていますが、ほぼ事業は変えずにやっていて、それでもこれだけの人が集まる組織であり続けているのはすごいと思いながらも、僕らは社会の変化に対応していろいろ変えているところがあって、この20年間を振り返って、何が進んで何が進んでないのか、これからどうやっていくのか議論したいと思っていまして、今日は楽しみに来ました。

(LivEQuality岡本拓也)檀上から客席を見ると同窓会のような感じで、懐かしいみなさんの顔がたくさん見られるのはすごくうれしいです。また、こちらに登壇いただいてもいいような方も多くわざわざ足を運んでいただき、SVP20周年を祝っていただける場に集って下さり本当にありがとうございます。

私は2007年の年末にSVPに出会い、2008年の年明けすぐにパートナーとして参画しました。ソーシャルの世界に、もうかれこれ15年以上いるわけですが、そのきっかけをくれたのがSVPです。

2011年から6年間、SVP の代表もやらせてもらって、本当に私自身が育ててもらったと同時に、みんなと一緒に第2創業期を作っていった思い出が、今でもすごく大切な思い出として残っています。
私が代表になった初年度の投資・協働先の一つが、小沼さん率いるクロスフィールズでした。クロスフィールズが、まだできて2ヶ月ぐらいのタイミングで投資・協働先になったわけですが、それが今や日本を代表する社会起業家になっていて、そうした起業家のみなさんと一緒に歩んできたと思っています。

私自身、ソーシャルな世界でずっとやっていこうという気持ちが強かったのですが、一時期、中断していました。2018年の年明けに、父が急に他界するということがあったのですね。それで東京から地元の名古屋に戻って建設会社を継ぐという、ソーシャルとまったく関係ないような世界に行きました。一度はお断りしたものの、これもご縁かなと思い、建設会社、地方の中小企業の事業承継問題の渦中に飛び込みました。そこから、私自身も荒波に巻き込まれまして、社長就任直後に言われたのが、「社長の仕事はゴルフと接待です」と。「いや、ゴルフやったことないよ…」「僕はこう見えてお酒は弱いけど…」と思いながら、地方の中小企業の中にどっぷり入っていました。そうこうしているうちに、2年後にコロナ禍になったのです。
そこで、私はスイッチが入りました。事業承継からの2年間、「郷に入ったら郷に従え」で非常に大事な期間だったと今でも思っていますが、やはり「遠慮していたな」と。
自分の人生、自分自身がチャレンジしていく、自分自身がトップとしてリーダーとして輝いていくこと、ご機嫌であることが、周りに対しての一番の貢献ではないか、と。そこで勇気を振り絞って、会社の役員メンバーに、LivEQualityというシングルマザー向けの住まいの提供と居住支援をする構想を話したら、「それいいじゃないですか」と言ってくれたんですよ。それは、僕としてはすごく嬉しくて。背中を押してもらいました。

その構想から3年たった今、名古屋に96部屋、物件でいうと4棟のビルを所有していて、その一部、3割ぐらいを限度にシングルマザーのご家庭にお貸ししています。DV等で困って逃げて来られる方や、外国籍のシングルマザーなど、今の不動産会社や大家さんでは物件を貸してくれないようなシングルマザー母子の方に、市場家賃よりも3割ぐらい下げてお支払いできる金額で貸しています。
その後、1年半前にNPO法人LivEQuality Hubという居住支援NPOを立ち上げ、シングルマザー居住者に伴走しながら、「住まいとつながり」を届ける事業をしています。LivEQualityには、Live(生きる、暮らし)という言葉と、Quality(ゆたかさ)という言葉、その真ん中にEquality(公平さ、あまねく人々に)という言葉が入っています。誰にとっても、やはり住まいはベースなのではないか、欧米では「ハウジング・ファースト」という考え方があり、まず尊厳のベースとなる住まいを届けることが大切だ、と。でもそれだけじゃなくて、人はつながりで生きている、この両方を届ける事業を、名古屋を拠点にスタートしました。

最近、インパクトボンドというものを私募社債で発行し、ソーシャルに金融を結びつけて、インパクト投資家の皆様と一緒に物件を取得し住まいを届けていくというチャレンジを始めました。まだまだスケールさせるのはこれからなので、益々がんばっていきたいと思っています。

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続いて、SVP20周年の企画のひとつとして、歴代の投資・協働団体とパートナーに対して行ったアンケート結果について、SVP東京(共同代表)の戸田有美から紹介。

※アンケート概略は発表済みの資料をご覧ください。
https://www.svptokyo.org/wp-content/uploads/2023/09/20th_research_flash_report.pdf

〈主な内容〉
・協働の内容は、一番多かったのが「経営戦略・中期事業計画策定」で、次が「資金調達・ファンドレイズ」、「組織体制整備・ガバナンス」と続く。
・協働の内容は多岐に渡るが、その中でも特に価値があった点を聞くと、「代表者本人の精神的な支えになった」が67%で一番高く、「人脈やネットワークが形成された」、「代表者以外の経営陣やスタッフの成長に寄与した」がトップスリー。戦略や新規事業などビジネス面の具体的な成果よりも、人としての関わりの部分が上位に来たところが、SVPの特徴として興味深いのではないか。
・さらに、協働開始時点での事業規模が1,000万円未満の団体と1,000万円以上の団体、協働開始時点で有給スタッフが3人以下の団体と4人以上の団体に分けて分析したところ、事業規模やスタッフ数が少ない団体の方が、マーケティングや広報PRの面での価値をより強く感じていることなどがわかった。
・協働開始時点では事業規模が1,000万円未満の団体が51%を占めていたが現在は20%に下がり、逆に1億円以上の団体が4%から33%に増え、大きく成長した団体が多い。

アンケート結果を受けて、登壇ゲストによるセッションへ。

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(小沼)逆に質問してもいいですか?
非常に面白いと思いながらこの結果を見ていますが、SVPのパートナーから見て意外だったところはありますか?

(SVP桐ヶ谷)私は想定外というのはなかったですね。私は8年目で、11団体に関わってきたのですが、「価値」というような話をすると、プロボノであれば一般的に会計とか、専門性を生かした支援だと思いますが、私は代表の壁打ちの相手をしているだけでも価値を感じてくれている感じなので、先ほどの「代表者本人の精神的な支えになった」というのはありがたいですし、良かったです。
他のパートナーから見て、意外なところはありますか?

(SVP(共同代表)神代伸一)意外というよりも、協働が終わった後のことをあまり知らなかった団体もあって、協働の2年間では目に見える成果はあまりなかったが、その後、5年経ったらびっくりするぐらい事業が伸びている団体もあって、それが一番うれしい驚きでした。逆に、あまりお役に立てなかった団体もありましたし…。それも見えました。

(SVP桐ヶ谷)「成長した」というのはすごく複雑で、「この健康食品のおかげでガンが治る」とか言っても、本当にそれが利いたのかはよくわからないではないですか。それと同じで、団体は成長しているが、それが本当に我々の活動の成果だったのか、目に見えるかというと見えないと思いながら、この結果を見ています。

(小沼)でも、団体の側からすると、51団体も回答するということが物語っていると思います。アンケートはハラスメント的にたくさん来るので(笑)、SVPに明確に恩を感じているから回答してくれるのでは。

(SVP神代)そうだとありがたいですが、回答率はほぼ9割ですね。

(SVP桐ヶ谷)アンケートにパートナーの属性がありましたが、SVPに応募して採択された時、どういう人が来てくれるのだろうという期待感はありましたか?

(中島)ピッコラーレはまだ事務局がなかったんです。「事業はあるけど、載せる船が無い」とETIC.の社会起業塾で言われて、でも、船をどうやって作ったらいいのかがわからない状態でSVPに応募しました。船の作り方がわからない、設計図を持ってない、でも、やりたいこと、荷物はある、みたいな状況の中で応募しました。
そうしたら、採択される前に桐ヶ谷さんが事務局長候補を連れてきてくれたんです。その彼女が今ではうちの団体を取り回してくれています。

選考している時から、パートナーの皆さんにはいろいろな人がいることはわかるけれど、その人の専門性が何かとかは私はあまりわかってなかった、実は。でも、この人はこういう人、明るい人とか、にぎやかな人とか、話しやすい人みたいなところはわかった。うちが良かったところは、私だけじゃなくて、団体のメンバーがそれぞれ信頼して頼れる人を見つけられたことですね。

(小沼)選考途中で2次選考に向けて仮のチームができた時に名刺交換したら、公認会計士、弁護士が2、3人とかなっていて、夢のような人たちが来ると思ったのが僕の最初の印象で、実際に進んだらかなりのドリームチームだったと思います。
我々が対峙している大企業の考え方がわかっている部長職の方や、内容が近しいプログラムに参加した経験のある方や、経営者の方がいらっしゃって、こういう人がいたらいいなという人たちがフルセットでそろっているチームができて、SVPって何だと思ったぐらい期待も高かったし、それを上回る人が来たという感じでした。

(SVP桐ヶ谷)これからパートナーになろうかと考えてくれている人には、すごくハードルを上げましたね。(笑)

(小沼)そうかもしれないですね。(笑)ただ、僕はアンケートの回答には、結果的に何が良かったかと言えば、「精神的な支え」だったと明確に回答しました!

(岡本)2人がSVPを褒め過ぎて下さり(笑)、SVPに参加しようかと思っている人のハードルを上げ過ぎている気がするので、私が本音を言いますと、正直なところ、すべての団体・ソーシャルベンチャーがマッチするかどうかは分かりません。伴走するパートナーの人たちと代表とのマッチングということがあると思います。
小沼さんと中島さんは、タイプは全然ちがいますが、お人柄も素晴らしいし、経営者としての能力も高い。その2人が引っ張ってくれて、その船に一緒に乗ったSVPのパートナーも共に成長させてもらったというのが、僕の視点から見たSVPのコアな部分です。支援する側される側、という関係性を超えた「共成長モデル」なんです。

SVPが他のプロボノ団体と違うところは、2年間という期間、自分自身が結構な時間をコミットして一緒に伴走しますので、そのコミットメントの違いが、団体にとってもパートナーにとっても大きな変化になるのだと思います。この2人のような社会起業家と伴走していると、自分も何かやろう、チャレンジしようとインスパイアされるんですよね。

先ほど、事業規模1億円を超える団体が最初4%から33%になったというデータがありました。これはすべてSVPのおかげだなんてまったく思わないけれども、基盤を2年間一緒に作るという意味では結構なインパクトがあるように思いますし、素晴らしいと感じました。


(SVP桐ヶ谷)今日のメインテーマとして、団体にとって2年間の協働の価値は何だったのかということは、あらためてお聞きしたいのですが。

(中島)みなさんの話を聞いていて、協働を始めた頃のことを思い出しました。
私たちが向き合っている社会課題、現場で出会っている人のことをみなさんに話した時、「全然わかってないな」と実は思ったんです。「わかってない」というのは、SVPの人たちだけがわかってないのではなくて、いろいろなところで話をする時に、「どこまで伝わったかな?」と思う。大変な人たちがいるということは伝わるけれども、その人たちの実際の暮らしとか手触り感みたいなものが伝えきれない。
やり取りの中で、すごく引っかかる言い方をされたり、スティグマを感じたりするので、SVPのチームの人たちの中でも、やはり「すごくかわいそうな人たち」と思っているんだなとか、そういうことを最初の頃は感じていました。
それまで、応援してくれる人たちに対して、私たちは「それは何か違うんです」とか、「もっと現場を見てください」とか、あまり言えてなかった。SVPの人たちには言えたのは、たぶん2年あったということと、ニックネームで呼びあうじゃないですか。普通は寄付してくださる方をニックネーム呼びすることはありません。ご飯を一緒に食べながらフランクに相談ができる雰囲気を作ってくれて、対等にやろうとしてくれる姿勢がそこにある。私たちは、最初の頃、「対等であってほしい」という願いはすごく言っていた。そうしたら、何をしてくれたか覚えていますか?
いつもの事務局のメンバーだけじゃなくて、みんなの話を聞く時間を取ってくれて、インタビューしてくれたんです。みんなに声をかけてくれて、インタビューの時間をとって、すごく話を聞いてくれたんですよね、一人一人。私の話だけじゃなくて。

(SVP桐ヶ谷)オフレコにします、不満でも何でも言ってもらって大丈夫ですと。

(中島)ああいう姿勢がパートナーの皆さんとの協働の価値ですよね。メンバー一人一人を一人の人として見て話を聞いてくれる、さらに、課題について、より理解を深めようとする姿勢でいつもいてくれた。
「0日死亡が一番多いんだよね」で終わらないというか、「その子たちってどういう子?」とか、「現場行ってもいい?」とか、それはあまりないですね、他では。
ワークショップをピッコラーレのことをすごく分かっている人がファシリしてくれたり、お誕生会も一緒にやってくれたり、共にいてくれる。何か介入しようとか、成長させようとか、結果を出せという圧とか、そういうことは言われなかったですね。2年でここまでなりなさいとかじゃなくて。

(SVP桐ヶ谷)2年で卒業して、そのタイミングで自立して欲しいから、「決めるのはあなたたちですよね」的なスタンスもあると思いますね。

(中島)2018年から応援していただいて、未だにSlackにパートナーのみなさんいてくださって、相談したりとか、ありがたい。寄り添いは続く…。

(SVP桐ヶ谷)あまり言わないでください。保障はされないので。(笑)


(小沼)すごく本質的な話だと思います。僕は協働が始まる時に期待したのは「機能」だったと思います。弁護士や会計士の「機能」が欲しいという感じで、初めは入ったと思います。
今思うと、役に立ってくれたかどうかではなくて、どれだけ仲間として一緒に戦ってきたのか、同じものを信じてこられたのか、という関係性だと強く思います。こちら側もSVPのみなさんと時間を使うところに本気で時間を投資する。SVPのみなさんもお金も時間も投資して本気で何かをする、その本気同士が期間限定でぶつかって化学反応を見せていくと思っています。
だから語弊を恐れずに言うと100万円の助成はどうでもよくて。それよりも最初から応援してくれた人たちとのつながりこそが一生ものになりました。

2人の方には特にお世話になって、協働が終わった直後に、今後もつながってくださいと泣きついて、「相談役」として携わってもらってきました。協働が終わった2013年から10年、2か月に一度のミーティングを欠かしたことはないです。

(岡本)すごい…。

(小沼)彼らに僕が何を求めているのかは、まったく「機能」ではなくて。
僕以上に、僕やクロスフィールズが向かおうとしていたビジョンを信じてくれた人なので、僕が相談すると、「それは小沼君がやりたいことじゃないでしょう」とか言ってくれたりするんです。こんな人と出会えることはもう、今からはない、絶対。その時だからあったと思います。

加えて、木下万暁さんという弁護士の方とSVPのチームで出会って、その後、監事もお願いして10年以上サポートしていただきました。多くの方がご存知だと思いますが、今年7月に他界されて、今はもう会うことはできないのですが、今でも見てくれていて、応援してくれていて、見守ってもらっている、この感覚が日常でもあるんです。そういう人と出会わせてもらったことは感謝しかないです。

経営者としてというより、人間としてこれだけの友情を世代も全然違う人と持てる機会を得られたのは、本当に「精神的な支え」だったということで、アンケートに回答しました。

(岡本)胸が一杯で、何を言えばいいか分からなくなってきました…。
投資先も成長するし、パートナーも成長する、「共成長モデル」で、我々は「支援」という言葉をあまり使わないんですよね。常に「協働」という言葉を大事にしています。この言葉に込める思いが僕はすごく大事だと思っていて、それは今、僕がやっていることにもつながっています。シングルマザーの居住者さんに、あえて「支援」という言葉を使っていなくて、一緒に成長しようということを大事にしながら、まず「自分たちがご機嫌であろう」ということをよく言っています。課題が深刻だからこそ、自分たちが楽しくご機嫌であろう、と。

SVPの時も、代表である僕が眉間に皺を寄せてしんどそうだったら場が楽しくないから、「岡本さんもっと笑ってよ」とか言われながら、そうやってパートナーの皆さんに支えてもらったことが、今の自分に繋がっていると感謝しています。
誰よりも当事者で課題に向き合っている起業家のみなさんにインスパイアされて、一緒に成長していく場であるという意味で、SVPのパートナーになることは素晴らしい価値があるとあらためて思いました。

(SVP桐ヶ谷)ここで質疑の時間を取りたいと思います。会場から質問はありますか?

(来場者)お話ありがとうございました。シングルマザーの支援をビジネスとして成り立たせるのは難しいのではないかと思うのですが、どういうやり方をしているのでしょうか?

(岡本)これはSVPで学んだことですが、「ビジネスとは何なのか?」ということだと思います。つまり、受益者からお金をいただいてサービスを提供する、という1対1の関係性の中でWin-Winが成り立つものだけがビジネスなのか?という問いです。その概念をもっと広げて、Win-Win-Winにもう一つくらいWinを繋げて、全体性の中でお金が回る仕組みが今、世の中に求められているように思います。なぜなら、1対1をベースとした狭義のビジネスの在り方だけでは益々貧富の差が広がり、取り残される人がどんどん増え、更には環境への悪影響なども顕在化しているからです。
私の場合は、シングルマザーに家賃を安くしてお貸ししています。普通の大家さんからすると、「なぜそんなことするの?リスクの高そうな人に」「しかも家賃を安くして」となるのですが、それが我々のやりたいことであり、千年(ちとせ)建設という母体があり、LivEQuality HubというNPOが助成金などの資金を外部から調達しがらシングルマザーに伴走し、全体としてお金が回るような仕組みにしています。
アフォーダブルハウジング(住居の確保が困難な人に提供する住まい)事業を始めてみて、不動産なので投資額はかかりますが、住まいは誰にとっても大事なものですし、同時に家賃収入が入ってくるので、社会性と事業性を両立したお金の流れを作ることができるという意味でも、すごく可能性を感じています。その分野でソーシャルスタートアップとしてしっかりと形にすべく、チャレンジしています。結果として、ビジネスの可能性が拡がる一つの事例になれれば、と考えています。

(中島)うちの場合は、助成金と、寄付と、行政からの委託のお金の3本柱で運営しています。そこで入ってくるお金と出ていくお金がトントンになるような形で運営しています。私たちの事業は受益者からお金をもらう事業モデルではありません。
でも、私たちが1人の人に提供した価値は、確かに1人の人のためから始まっているのですが、最近すごく感じていることは、それを共有する先がいっぱいあるんです。同じような活動をしている人たちとか。

例えば、ソーシャルワークの分野で、ある一つの制度をこじ開けるということをします。ある人への対応が必要だとしても、制度で「枠」があるから枠の外になってしまう人が生まれている時に、その枠の外の人をどう枠の中に入れるかという点で、現場に対して働きかけるし、その制度をつくった国などに働きかけます。そして、国が通達を出すということが起きると、一人の人にしたこと、例えば東京の豊島区でしたことが北海道の札幌でも使えるようになるんです。そういうことを私たちはすごく大事にしていて、それが全国で使えるようになったらすごいアウトプットだと。
そこで私たちが儲かるわけではないけれども、でも、本当にその場で困っている人たちが助かるということが起きるわけです。そういう面白さがあって、お金じゃないというか、それを一緒に喜んでくれる人くれる人たちが寄付してくださっています。

居場所のない若年妊婦のために「ぴさら」という居場所を運営していますが、年間に受け入れられる人数は8人から9人です。8~9人は少ないと言う人もいますし、私たちのような小さな団体でできることはこれぐらいです。こういったミクロの活動と並行して、マクロの活動も行っています。例えば、同じようなことをしている人たちと定期的にオンラインで勉強会や情報交換をしています。2月にシンポジウムを開きたいと思っているのですが、そこでさらにこのつながりを横展開で広げたいです。一人の方への実践を同じように困っている誰かが使えるようになる。みんなが使えるようにすると何倍にもなるし、本当は国がやらなければいけない社会課題だねということの認知も広がります。
ぴさらの実践は「なければつくる」から始まりましたが、令和6年の児童福祉法の改正で、制度になりました。私たちが今やっているこのことが法律を変え、制度になった。
そういうふうに、ミクロの現場を動かしながらマクロに広げていくことも一緒にやるというか、それをお金に換算したらすごいことに…。

(岡本)「社会のお金の流れをデザインする」という感覚もありますし、ビジネスというよりも、もう少し広い世界観で見ているところがありますよね。

(小沼)山口周さんという方が『ビジネスの未来』という著書で「役に立つものはどんどん価値が落ちていく、これからはもっと共感をベースにしたものや、役に立つよりも意味があるものに価値がつく時代で、そこにビジネスの未来がある」とおっしゃっていました。
今お金がついているものから、今は値付けができない共感とか贈与にビジネスの未来があるとすると、先ほどの質問は「ビジネスとしてどうやって成り立たせているのですか?」ということでしたが、もしかすると、企業の普通のビジネスの先を行っているのが、我々ソーシャルセクターの中にある気がしていて、すごく示唆的な話ではないかと思っています。

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ここで、会場の参加者が小人数に分かれて交流する時間に。

 

(SVP桐ヶ谷)今日は20周年で協働の価値にテーマを絞って話しましたが、SVP は今後こうあってほしいということがあれば、お聞かせください。

(小沼)今日話していて、あらためてSVP東京の価値は機能的なものというより、人と人との信頼関係のあるつながりをどれだけ作って、応援する関係性をどれだけ築けたのかだと思います。
でも最初から、応募する団体に「精神的なつながりが重要です」と言っても、応募は来ないと思うので、結果的にそこに落とし込むのが2年間の協働という、変わらないお家芸的なものではないかと思います。協働が「うまく行く/行かない」というところも、関係性ができたかどうかで測れば、どこでうまく行くのか行かないのかが分かって、より豊かな関係性が作れるようになるのではないかと思います。それがひとつ。

もうひとつは、全然違う話です。このフィールドで20年ぐらい活動している立場からすると、ソーシャルセクターが全体的にすごくイケイケどんどんで上がっていっているかというと、残念ながらそうではないと見ています。2005年から2010年代前半までは、いわゆる社会起業家ブームや、東日本大震災や、民主党政権などがあって、社会起業家、ソーシャルビジネスがグーッと伸びていく局面だったと。
僕がすごく覚えているのは、SVPのネットワークミーティングは憧れの場で、当時、大学院生の自分はそこに行って社会起業家の方と名刺交換させてもらった。熱量があった感じがしています。
今は、ちょっと違う、円熟したエネルギーがここにあると思っていて、こうなってくると、セクター全体として見た時に、若手の流入がすごく大事だと思っています。

SVP東京は社会起業家を育てるエコシステムとしては確固たるプレゼンスを持っていると思うので、どうすればもっと社会起業家が日本から出続けていくのか?それを応援する人たちが増え続けるのか?ということを正面から考えていただければ、より意味があるのではないかという気がしています。
例えば、今よりもう一段、アーリーフェイズの起業家に対して、少額のお金でもいいから応援する数を増やしていくことかもしれないですし、パートナーの方が岡本さんのように新しく何かを始めるときにお金を出すとか、社会起業的な動きが起こるインキュベーションのところをどうやって増やしていくのか。
そういうところを見てくれる人が今、日本社会でちょっと少なくなってしまっている。そういうことに対して称賛が集まったり、かっこいいと言われるような世界観を作るにはどうすればいいのか、自分自身も当事者として一緒に考えさせていただきたいと思っています。勝手な期待とともにお伝えして、20周年のお祝いとさせていただきます。


(中島)私は、SVPにパートナーになってもらう立場として話させていただくと、トランジション支援とか、団体が変わっていくところ、例えば代表が次の世代に代わるとか、SVPは1代目、2代目、3代目、共同代表と代わってきて、ノウハウがあるように見えます。
代表が代わるとか、新陳代謝していくことはありますが、どう変わっていったらいいのか。団体の中が血みどろになる話を結構聞くので、そうならずに変わっていく方法を支援する団体はあまりない気がします。トランジション支援とか、やってくれると。
何が言いたいかというと、2回目の応募をありにしてほしい。今もずっとつながってくれているのですが、ピッコラーレとして、この部分にSVPに入ってもらう2年間が欲しいような時に…。

(SVP桐ヶ谷)ルールとしては、2度目の応募はなし、というルールはないです。ただ、みなさん遠慮されているなあと…。(笑)

(中島)いいことを聞きました。(笑)
もうひとつ付け加えると、団体全体を支えてくれるだけではなくて、団体のあるメンバーにとってのパートナーみたいな人もいるんです。小沼さんの「2ヶ月に1回」という話を聞いた時にふっと浮かんだことで、私はときどき不定期でパートナーとお会いしてご飯を食べながら話を聞いてもらう時間を持っているのですが、うちのあるメンバーはSVPの人に月イチでずっと話を聞いてもらっています。そういうところに本当に価値があるというか、そういう人って見つからないと思うんですね。「仲間として一緒に戦ってきた」と小沼さんは言いますけど、大事な親友みたいな人が見つかるのがこの2年間の協働だと思います。

(岡本)20年続けるのは、普通に大変なことですよね…。
あまりうまく言えないのですが、この20年間、SVPにはいい人が集まって、いい流れを生み出そうと、みんなが努力している結果だと思うんです。そういう場は、今の世の中にそんなにたくさんあるわけではないな、と。合目的的でもなくて、機能的でもなくて、ただ人と人を大事にしようみたいな場が続いているのは素晴らしいと思います。だから、こういう場をこれからも持ち続けてほしいと思いました。何か、ここをこう目指した方がいいみたいなことではなくて、この大事なものを大事にし続けるみたいなことが一番の価値なんじゃないかなと。あまりうまい言葉ではないですが、そう感じました。
一緒にがんばりましょう。おめでとうございます!


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【SVP20周年】第2弾イベントを11月30日に開催します!
第1弾イベントは社会起業家にフォーカスしましたが、第2弾はSVPのパートナーにフォーカスします。

タイトルは
【ワークライフシフト with SVP 〜未来を創る”仲間”に出会う〜】
とても価値のある事業を発展させている卒業パートナー2名と、独立や転職の決断をした現パートナー2名をゲストに招き、キャリアや働き方について語りあいます。

オンライン配信はなしで、交流できる時間にしたいと考えていますので、下記のイベントサイトで詳細を確認、ぜひ会場に足を運んでください!
https://svp20th-1130.peatix.com